※新組織改編前に作成した記事です

統計モデルを利用して消費者の行動メカニズムを解析
学生には課題“発見”能力を養ってほしい

Tadahiko Sato
佐藤 忠彦 教授

 消費者の購買行動、WEBの閲覧履歴などの 消費者の“行動結果”についてのデータは技術の進歩に伴って得られやすくなっていますが、その行動に至る理由まで観測できるデータですべて追跡できるわけではありません。佐藤忠彦教授は、統計モデルなどを利用して、消費者の行動へ至る理由をも明らかにしようとしています。修士課程で担当している「マーケティング・リサーチ」と「マーケティング・サイエンス」では、データの収集や解析の手法など基礎的な部分も含めて講義をしていますが、同時に、データの背景を深く考え、生徒自身の“課題発見能力”を養うきっかけにもしてもらいたいと考えています。

 私の研究分野は、マーケティング・サイエンスであり、企業のマーケティング活動の高度化に寄与する知見の獲得を狙いとし、統計モデルを活用した実証研究を行っています。マーケティングを高度化するには顧客や消費者の真の行動メカニズムを明らかにすることが必要不可欠だととらえられがちですが、データに表れるのは結果であり“真”の姿を解明するという意味では難しさもあり、基本的には非常に困難な課題だといえます。でも難しいからといってそこで止まってしまうのではなく、消費者行動の“真”の姿に少しでも接近したいと考えています。
 マーケティング分野では、アンケートデータのように能動的に取得するデータではなく、ID付きPOSデータやWEB上のログデータのように受動的に蓄積されるデータの高度活用に注目が集まっています。いわゆるビッグデータです。マーケティングのビッグデータに蓄積されているのは、消費者の行動の結果であり、その行動に至る理由までは蓄積されていませんし、結果と同じ粒度でそれらをデータ化するのには限界があります。この現状では、すでに蓄積されている結果データからなぜ行動に至ったのかを解き明かしていくことも求められています。それができていけば、真の行動メカニズムの近似的な理解であったとしても、マーケティング実務における施策立案には有効だと考えています。

Tadahiko Sato

 GSSMの修士課程で担当している科目は「マーケティング・リサーチ」と「マーケティング・サイエンス」でマーケティングの基本的な科目でもあるので、当該分野で必須の重要事項を中心に講義していきます。
 「マーケティング・リサーチ」は、解析の元となるデータをどうやって取るのかといったことも含めて議論をしていくもので基礎的な科目です。全体を通じてマーケティングを高度化するための知見を得られるようにすることを念頭に置きながら、調査法と基本的な解析技法を解説していきます。
 一方、「マーケティング・サイエンス」は、データの解析法に特化した科目で、すでにあるデータをどう分析していけば実務に有効な知見を獲得できるかを講義と演習で学習してもらいます。マーケティング分野には、例えばPOSデータによって“何が”“いつ”“いくらで”“何個”売れたかが自動的に蓄積されています。そういったデータを基にした課題を学生に与え、解析手法の学習に加え、実際に手を動かして解析のやり方も学習してもらいます。しかし、単にデータ分析をソフトウェアでやれるようになることをめざすのではなく、消費者行動の背後にある構造までをも推察できる能力を培ってもらうために、種々の討論も行います。表層的な理解ではなく、本質的な理解には上記のプロセスがとても重要だと考えているからです。

Tadahiko Sato

 このように授業を行っていますが、ここ数年、マーケティングの研究を目的として入学される方や、実際の業務で関係する仕事をされている方が多くなっているためか、最初からポテンシャリティーがあって、こちらはそれを刺激していくだけという感じもあります。ただ、実務で関わってきたなかで何らかの限界のようなものを感じられて入学してくる方も少なくないように思います。
 さらに新しいアプローチといえるものを求めてこられる方もいるように感じています。例えば、セールをしてもあまり売れない状況で、実務的には経験に基づきうち手を考えることが多いでしょうが、学術的アプローチを用いれば、それら主観的情報をビッグデータから取得できる客観情報に基づいて修正した形式で施策立案ができます。すなわち、実務アプローチと学術アプローチの間には違いがあるのです。その周辺を学びたいと考えてGSSMへ入学して来られる方も多いと考えています。私も、その観点から学んでもらえるようにしていますし、実際多くの学生は学び直しというより、そこを求めて来られる学生が多いように感じますね。

Tadahiko Sato

 新しいアプローチを習得するには、物事を画一的にではなく多様な視点で見ていくことが必要になります。そのためには一つの考え方があります。それは、「素人のように考え、玄人として実行する」というもので、これはロボット工学の大家である金出武雄先生が書かれた書籍のタイトルでもあります。何かを発想していくときには素人のように、言うなれば子供が「これ何?」と素直に聞くような視点、発想が大切なのです。こういった発想ができないとなかなか面白いと思えることに接近できません。しかしマーケティングを業務でされてきた方は、まさにマーケティングに関しては玄人といえるわけで、通常の思考プロセスでは玄人の発想で物事をとらえていきます。もちろん、その発想でも玄人としての処理がなされれば有効な知見獲得に近づけるとも言えますが、素人的処理に終止するとまったくもってつまらない解析しかできず、結果有効な知見獲得にはつながりません。ですからGSSMでは、多様なものの見方から発見できた自分なりの課題を素人の処理ではなく、玄人の処理に落とし込めるようになってほしいと考えて、指導していきます。
 在学中には、課題解決能力だけではなく、課題“発見”能力を養っていただきたいのです。面白い発想で正当な課題設定をできれば、それを解決するための技術はいくらでもあります。すなわち、課題を見つけられるかどうかが極めて重要なのだと理解してもらえると思います。是非、GSSMに入学し、自分自身が真に課題だと思えることを見付けられる能力を培ってほしいと考えています。

<構成・舘谷 徹>

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