※新組織改編前に作成した記事です

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小久保 欣哉さん

  • 株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部
  • 企業科学専攻 システム・マネジメントコース

Q.入学の動機を教えてください。
A.私はコンサルタントとして、医薬品産業の分析や、医薬品メーカーが競争力を高めるための提案活動などを行ってきました。医薬品産業は従来技術から新しい技術へのパラダイムシフトが起こり、プレイヤーのポジションが大きく変化しています。そのような環境下で、どうしたら競争優位を維持できるのか、そんなことを常に考え、成果を発信するためにジャーナルへの論文投稿などの活動も行ってきました。それらを博士論文としてきちんとまとめ、特に、国内の新薬メーカーの発展にも寄与する研究に取り組みたい、というのが入学の動機です。また、私は経済学の修士課程で定量的な分析の方法論を学びましたので定量的な分析に強い大学院であること。さらに、経営戦略論、組織論を研究している教員がいらしたことも入学動機です。
Q.研究テーマを教えてください。
A.医薬品産業を対象にしたイノベーションをテーマにしました。博士論文の題目は「非連続な技術変化に対応する企業のイノベーション戦略行動とプロセス:日本の製薬企業を対象とした分析です。問題意識は、前述の通り仕事を通じて感じた国内医薬品産業についての強い危機感です。かつての日本の医薬品産業は既存技術である低分子合成薬を強みに世界的にも比較的高いポジションを有していました。しかしながら、新技術であるバイオ医薬品の台頭により競争優位性の源泉につながるコア技術が変化し、劣位な状況にあります。さらにジェネリック医薬品の置き換えも進むなかで、バイオ医薬品へのシフトは国内の新薬メーカーにとって喫緊の課題です。私の研究では、医薬品産業の動向や武田薬品の事例分析、さらに医薬品の基礎研究者を対象とした実証分析などを通じ、苦戦を強いられている国内の新薬メーカーの再浮上のための処方箋とは何か、をテーマとしました。

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Q.研究で大変だったことはありますか。
A.一貫性のある博士論文に仕上げることに苦労しました。当初はジャーナルに掲載された複数の査読論文を活用しながら博士論文にまとめようとしていました。しかしながら、複数の論文を集めただけでは査読担当の先生方を納得させるだけの論文に仕上げることができませんでした。論文執筆には慣れているつもりだったのですが、ジャーナルの投稿論文の頁数は10頁~15頁前後です。一方で、博士論文は200頁超。その長さで最初から最後まで一貫した主張を通すのは難しかったですね。最終的には過去の査読論文にこだわらず、データの捕り直しや再解析、インタビューを何回も繰り返しました。これらの作業をしていて気がついたのですが、物理法則などとは異なり、社会現象は生き物なので刻々と変化します。私は以前の論文やデータをそのまま用いたので、論文全体の整合性が取れなくなっていたのです。それに気付き、過去の査読論文のデータと取り直したデータを用いて時系列変化を考慮した再解析を行い、一貫性の高い議論につなげることができました。
Q.研究を進める上で助けになったことはありますか。
A.専門分野の異なる先生方からの多面的な指導やサポートに、とても助けられました。主指導教員は入学以前から学会でお目にかかっていた稲水伸行先生(現東京大学大学院経済研究科)です。私が3年間で博士号を取得できたのは、稲水先生のご指導の賜物です。私の博士論文は実証研究と事例研究の両輪で構成されているのですが、これは立本博文先生からトライアンギュレーションの重要性について指導いただき取り入れました。さらに、実証研究の分析では多変量解析や共分散構造解析などを用いたのですが、この部分では領家美奈先生、尾崎幸謙先生にお世話になりました。
 また、私の勤務先にはGSSM出身者が複数在籍しているのですが、研究で壁にぶつかったときなどに相談に乗っていただき、とてもありがたかったですね。

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Q.ゼミはどんな感じでしたか。
A.ゼミは毎週開催されており、主に輪講とゼミ生の研究発表が中心です。輪講は、Yin(1994)やEisenhardt(1989)など事例研究の重要論文や最新論文を読みました。ゼミの準備は大変で、前日は明け方近くまで資料作成といった日もありました。体力的にはキツかったのですが、ゼミの時間はとても充実していました。ゼミ生には大手メーカーや大手企業の経営幹部の方々も在籍していましたので、コンサルティング業務を離れたところで、経営理論を介して、そのような方々との議論は大変参考になり、知的刺激を受けました。業界や年齢を横断して優秀なビジネスパーソンと人的ネットワークを構築できるのはGSSMのゼミの特徴かもしれませんね。
Q.博士号を取得して何か変化はありましたか。
A.博士論文をベースにした初の書籍「非連続イノベーションへの解 研究開発型産業のR&D生産性向上の鍵(白桃書房)」が2017年2月に出版されました。出版社の方とお目にかかったときに「GSSMの博士論文なら問題ないでしょう」とお墨付きをいただき、すぐに出版が決まりました。GSSMの研究水準の高さが認知されている証拠だと思います。
 また、学会発表の場で製薬メーカーの方に声をかけていただき、「ぜひ社内でも話をして欲しい」とご依頼をいただきました。仕事柄、コンサルタントとして講演活動を行う機会はあるのですが、研究者という立場の私に声を掛けていただき嬉しく思いました。

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ありがとうございました。

 

(2017年2月取材)
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