※新組織改編前に作成した記事です

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柴田 健一さん

  • IT関連企業
  • 企業科学専攻システムズ・マネジメントコース

Q ふだん、どんなお仕事をされていますか?
A インターネット上で旅行商品を比較するサービスを提供している会社の役員をしています。この会社は2001年にco-foundersの一人として立ち上げた会社で、いくつかの事業を展開しながら、IPO、MBO、会社分割後の事業売却などを経て、現在は旅行関係業を主に行っています。創業者経営者として、主に会社全体の戦略、事業方針、海外展開などを担当しています。
Q GSSMでは、どんな研究をしていますか?
A GSSMでは経営戦略の中の競争ダイナミクスという分野について研究しています。競争ダイナミクスというのは、企業間の競争行動を分析する分野ですが、私の場合なかでもどのようにしたら競争相手企業に真似されないようなやり方で、競争行動を取れるかということをテーマに研究しています。
 指導教官は立本博文教授です。立本先生の研究分野はオープン標準戦略、プラットフォーム戦略などが中心ですが、経営戦略論全般について幅広い知識をお持ちなので、私の研究分野についても広い視点から的確なアドバイスをいただけます。また立本研究室に所属している博士、修士の同僚の研究分野は経営戦略のなかでも様々ですが、違う研究分野から学ぶことは多く、大きな刺激になっています。
Q 経営者でもあり、
研究もされているわけですね?
A ええ。それは良いことだと思っています。客観的に物事を見るとか、自分の経験だけから語るのではない、ということは重要だと思う。日本では経営者ではPh.D.はもちろん、修士も少ないです。欧米が必ずしも正しいわけではないけれど、欧米では日本に比べて多いです。
 これまで日本企業って、人事ローテーションとかでやってきたわけで、それも多角的に見る訓練じゃないですか。1つの会社に入った後、色々と経験を積むために異動するわけで。ただ、今は昔ほど会社の言う通りに全然違う部門を転々とする人って少なくて、より専門化してきていますよね。
 転職する時だって、全く関係ない業界に行くって難しいですよね。そうすると、いろんな意味で視野は狭くなるかもしれない。専門性は高まるけど。とはいえ、広い視野を持っていないと経営者として判断できない。どこか別のところで多角的に、いろんな視点で広く物事を見て判断できる訓練が必要なのかもしれません。
 経営者の書いた本を読むと、面白いんですけど、当然ですがほとんどが経験談。こうやって上手くいった、だけどそこに客観性はあるのか、と思います。偶然かもしれないし。時代の流れもあるでしょうし。そこに疑問を感じるんです。
 私は自分も疑いますし、必ずしも自分の判断が正しいとも思わない。それを常に思うわけです。あるとき上手くいったことが、次上手くいくとは限らないわけですし、そんな中でいかにすればバイアスを排除して判断できるか、と思います。
 日本はあまり経営者に学歴があったりすると、頭でっかちに思われてしまってマイナスに捉えられがちですけど、アカデミックな経験を積むことで、物事を見る目も広くなるし、それは客観的に見たり、批判的に見たりできるひとつの訓練だと思う。もちろん研究内容を直接仕事に活かせれば尚良いが、そうでなくても、ビジネスの物事を見る訓練として良いと思います。
Q アカデミックな経験を積みたいと思って、
GSSMを受けたのですか?
A そうですね。実はアメリカでマスターを取っていまして、その後で、会社を作って実務の世界に入って、日々経営していく中でいろいろと疑問に思うことがあるわけです。それは、やはり自分の狭い範囲でしか物事を見ていないので。一般的には?とか他の業界だったらどう見るのかというように、いろいろと疑問を持ち始めて、それらを探求したいと思うようになりました。アカデミックな経験が自分の幅を広げる、という面もあったけれど、それは入ってやってみて分かったこと。実際は研究してみたいな、探求してみたいな、と思ったのがきっかけです。
 実際の効果として日々の経営の中でも客観的に違う業界の事とか、ビジネスの構造を考えたりとか、上手くいっても果たして何の原因で上手くいったのかというのを深く考えたりとか、そういったことが自然に身についてくるものがあったかなと思っています。
 立本先生は僕の業界のことは全然詳しくないですし、授業ではエレクトロニクスとか自動車業界などの産業のことを扱うことが多いですが、それは僕にとっては非常に新鮮です。ただ、ビジネスにとっては共通することがあるんです。物の考え方とか、すごく刺激になります。

 

Q 研究を、どう実際のビジネスに
役立てたいとお考えですか?
A 直接的には、私自身経営者として日々、競合に対してどのように戦っていくべきかを考えており、自分の研究テーマはまさにそれがテーマになっています。研究内容が即、経営の実務に反映されて効果を発揮できるほど単純なものではありませんが、研究のテーマについて考える中で、自身のビジネス上の課題について洞察を得られることも多く、そういう点で役に立っています。
 また、研究の過程において様々な論文を批判的に読むことが求められます。その過程で、批判的な視点で物事を見ることや自社とは全く違う業界のビジネスについて考える機会があることが間接的には経営者としての幅を広げるのに役立っているように感じます。そういう直接、間接的な効果を含めて実際の仕事に役立てたいと思います。
Q 経営戦略の研究と経営は、
どの程度リンクするのですか?
A 必ずしもダイレクトにはリンクしないかもですね。だけど、間接的に。物事を考えるプロセスなんですね、経営戦略って。いかにして入れた情報を使って、それを構築するかなんです。世の中全体が右肩上がりで、勘で経営して何とかなる時代ではないですから。戦略的に組み立てていかないと駄目だと思います。いかに競争相手と競争していくか、とか、機会をどうやって生み出していくか、っていうのは戦略的な発想がないと難しいと個人的には思います。
Q 頭でっかちになって、
邪魔になるということはないですか?
A 行き過ぎると、もしかしてそうなるかもしれないですね。僕は実務と研究、両方やっているので、そこまで行き過ぎるということはないですけれど。その先のことは学者、専門の人が探求していくことでしょうね。私はその中間にいるわけですけど、アカデミックな貢献はしたいと思っています。単に自分に活かすだけでなく、学んだ成果を広く世の中に活かせれば自分にとっても良いと思うし、もうひとつはこのプロセスの中で自分に得られたものっていうのは経営者としての自分にとって物事を多角的に考えたり、幅を広げたり、ロジカルに考えたりということに活きてくると思います。自分にとってマイナスになることは考えていませんね。
Q 同じような立場・役職の方に、
おすすめですか?
A そうですね、はい。もちろん簡単ではないと思いますが。日本の経営者はいかに学生の頃に勉強してこなかったかを自慢する人が目立ちます。とはいえ自分の子供には勉強しろとか、最近の学生は勉強していないとかを言う。言ってることがおかしいじゃないですか、自分は勉強してこなかったのに。彼らのメッセージは、自分は勉強してこなかったけど実務で鍛えられたとういことかもしれません。でもそれはまた違うメッセージかなと思うんです。
 学校のテストだけの狭い意味での勉強でなく、広い意味での勉強をすることは誰も否定しない。大学院に入ってやることってそういうことだと思うんです。高校生までの勉強って答えがある勉強でいかに効率的に問題を解くか、ですけど、会社の経営っていうのはそういう要素も少しはあるけど、それは高校生までに終えているので、それ以降の勉強っていうのは自分でテーマを設定して答えのないところに(仮の)答えを出していくっていう勉強じゃないですか。研究って、まさに誰もやっていないことをやるわけですから答えがないんです。そもそもテーマ設定から考え、それをどうやって証明し納得性の高いものに仕上げていくか。そういう意味で研究と仕事(経営)は似ているところがあります。
 答えのある算数の勉強を経営者がやる必要はないと思うけれど、答えのない中に答えを見つけていくプロセスとか、自分で答えを設定する力というのは研究に通じるものがあって、経営者こそまさにするべきじゃないかと思うんですけどね。
 立本先生の授業は脳が活性化されますね。論文を読んでも、僕が理解する範囲と先生が理解する範囲は全然違います。自分の分析の視点とかの幅を広げるためには、あぁそうか、そこまで見通せなかったなと思えた経験の積み重ねが重要だと思います。

 

Q 学ぼうとするタイミングは
いつ生まれたのですか?
A 仕事が落ち着いたというのもあって、この十何年ガムシャラにやってきたので、少し節目があって、一段違うところで自分を高めたいと思って。経営者って終わりがないんです。社員であれば転職もあるじゃないですか。異動もありますし。
 急激に事業を変えていくこともできないし、いろんな刺激は受けますけど。違う刺激を受けることは自分にとってプラス。それはイコール、会社にとってもプラスになるのではないかと。
Q ビジネスの展望は変わりましたか?
A 海外展開を具体的に始めました。経営戦略的にいうと、それはあまり変わらないですけど、いろんな刺激を受けていろんな可能性があるかなと。狭いインターネットの世界に留まっていないで、と考えるようになりましたね。ビジネスも広がりが出てくるのではないかなと思います。
Q 通学する上での、時間のやりくりの
アドバイスはありますか?
A 時間という意味で言うと、物理的に来ないといけない時間は限られているからそんなに影響ないかなと思います。私は修士1年目の最初がピークで週3だったかな。そんなに授業の負担はなかったです。博士になると尚更物理的に来なくてもいいんです。修士ならはじめの半年ぐらい、週3来れないとなると難しいかもしれない。だけど、そこは何とか頑張れるというのであればあまり心配しなくても良い。
 このビジネススクールはパートタイムなのでそのメリットは大きい。アメリカのビジネススクールに行った時はフルタイムなので皆仕事を辞めて来ている訳ですから。逆に言うと、アメリカのビジネススクールの仕組みではそのくらいのコミットを通じてしか学べないことをやるわけです。
 こちらのビジネススクールは基礎的な科目や自分の興味のある講座を受講したら、修士も博士も、あとは自分の研究なんです。そこにどのくらいコミットできるかなんですが、それは自分でマネージできる訳です。ここに物理的にいなくても。その代わり自分でマネージしなくてはいけない難しさがありますよね。いちばん簡単なのは授業に出ることです。でもそれだけじゃ研究は進まない訳です。
 研究っていうのは自分のテーマを深めることですから、自分で自主的にどういうことをしなくてはいけないかを決めて、やってみて、成果を確認して、教授に相談して、ということを回していかなくてはいけない。そこがいちばん大変だと思います。
 会社や家族も多少あるけど、やっぱり自分なんです。自分でマネージできるか。大変だけど、これは訓練になって仕事にも活きると思うんです。時間はなんとかなると思うので、そこをあんまり心配しないで。

 

Q GSSMはどんな学校ですか?
A  なんらかの研究への熱意とかがないとしんどいと思うけれど、単に授業して終わり、というのではないので、ここはそういう意味でも、良い学校だと思います。研究することは最初は重荷だと思うんですけど、悩み、苦しむプロセスが何より自分の力になります。
 一人だけだと難しいけれどみんなやってるし。あの人けっこう論文進んでるとか。人の発表を聞いて、自分の状況はまずいとか。そういう力って出ますから。そういう意味では重要だと思います。こういう場でやっているっていうのは。

   本日は、長時間ありがとうございました。

 

(2016年3月取材)

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