※新組織改編前に作成した記事です

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中川 慧さん

  • 三井住友アセットマネジメント
  • 経営システム科学専攻

Q ふだん、どんなお仕事をされていますか?
A 資産運用会社で、株式運用グループ、クオンツ運用のファンドマネージャーをしています。クオンツ運用とは、Quantitativeの略である、数理的・定量的な手法を用いた運用です。私はその中でも外国株式と外国不動産の運用を担当しています。そのほかに、大学院の研究内容と最新の学術成果を踏まえたファンドの設定を目標に商品開発をしたり、運用モデルをシミュレーションしたりしています。また、他部署からの相談にクオンツ的な視点でアドバイスをすることも重要な仕事です。
Q GSSMではどんな研究をしていますか?
A 私は山田先生の研究室で研究していました。金融工学や数理ファイナンスを主に研究する研究室のため、金融関係者が多く在籍しています。私は、実運用での活用を目標に、共和分ペアトレード戦略の開発と実証分析に取り組みました。共和分ペアトレード戦略とは、共和分性を満たす株式ペアの価格水準が平均から外れた時にポジションを取り、平均回帰したときにポジションを解消することで、市場環境に依らず収益獲得を目指す戦略です。
もともと山田先生の研究テーマであった最適なペアトレード戦略に興味があり、先生の研究室があるGSSMを志望しました。先生の研究を参考に、時系列モデルによるペアの予測と、複数ペアを組み合わせたポートフォリオとしての最適化を活用した運用手法を構築しました。そしてその手法の有効性を実際の市場データをもとにした実証分析により確認しました。
Q 実際にお仕事されているのに、研究することが必要なのですか?
A クオンツとして仕事をしているからこそ、研究や勉強が必要だと感じます。またGSSMで得られるものは、新しい知識だけではなく、豊富な人脈です。初めての土地でも「地図」があれば迷子にならないのと同じように、「専門分野に詳しい方」からアドバイスをもらうことで目標に確実に到達することができます。研究は「実運用で使えてなんぼ!」と思っているので、先生や他の生徒達と議論しながら、実務で使える運用戦略の開発と分析ができてとても良かったです。
Q GSSMは、ある程度、社会人経験があったほうがいいとおっしゃる先生方が多かったのですが、ずいぶんお若いですね?
A  そうですね、GSSMの同期の中では私が最年少でした。私は、大学生の時から金融の勉強をしながら実際に投資を行い、常に実践を意識していました。社会人になっても勉強を続けたいと思っていたので、社会人1年目にGSSMを受けました。まだまだ研究したいことが山ほどあるので、年齢的に早かったとは全く思っていません。
Q 入試の時の面談が厳しいと聞きましたが?
A 面談には、研究計画書を持っていくのですが、先生方からするどい指摘を多く受けました。その場で上手く答えられず、正直合格する自信はなかったです。入試時の面談は厳しいですが、GSSMでやりたいことを真剣に伝えることが大切だと思います。

 

Q 研究を、どのように実際のビジネスに役立てようとお考えですか?
A 金融工学はもともと実務とアカデミックな世界の交流が盛んです。その適用範囲は、デリバティブのプライシングやポートフォリオ理論による投資・運用手法の開発、定量的リスク管理など実際の金融実務の多岐にわたっています。そしていずれも最先端の研究成果を実務に取り入れられ、また実務からの気付き等が研究へフィードバックされていきます。
 私の場合は、GSSMでポートフォリオ理論をベースとした運用手法の開発に取り組みました。現在はそのエッセンスを活用した運用商品の開発に取り組んでいます。あわせて、業務で生じた新たな疑問に対して金融工学の手法を用いた解決方法を探っています。そしてこれを研究として昇華させたいと考えています。今後も実務と研究の前線で両者のバランスを取りながら、日本の資産運用の発展に貢献できるように尽力していきたいです。
Q 金融工学のどのようなところに惹かれて、研究されているのですか?
A 金融工学は学問と実務が非常に近く、研究したことを実運用で活かせるところに魅力を感じています。
また、パフォーマンス結果等の数字で、手法の優劣がはっきり見えるところも面白いです。パフォーマンス結果をもとに、改善策を考えて、よりよいものを作りあげていきます。
 ただ、どんなに素晴らしい金融商品を作っても、一般の投資家の方々に分かりやすく説明することが難しいです。いかに分かりやすく、エッセンスをつかんでもらえるか、今も苦心しています。自分では素晴らしいと思っても、伝えてこそ、意味があります。

 

Q 山田先生は、アイデアを思いついたらすぐにメモをとるとおっしゃって、使い損じたA4用紙のファイルを見せてくれました。
A 私も山田先生と同じように、常に筆記具を持ち歩いて、アイデアをメモにとれるようにしています。私は、山田先生と相性がいいと思うことが多くあって、すごく居心地のいい研究室でした。
Q どのようなことをメモするのですか?
A  最初は思いつきです。こうやったら上手くいくのではという、ひらめきや思いつきをメモします。
いきなり数式から始まる場合もありますし、アイデアだけ書く場合もあります。後で読み返して、最後は数式に落とし込みます。

 

Q 仕事、家庭、研究のバランスは、どうとっていますか?
A  仕事の面では、私達は研究することも仕事の一環ですので、会社からの理解は得やすかったです。仕事を少し早めに切り上げて、授業に行くことに社内の抵抗はなかったですし、社内には私の他にも大学院に通っている方がいます。
 いちばん苦労するのは時間です。時間が全然足りません。仕事も研究も時間を区切って必ず終える、終わらなくても進まなくてもそこで終える、ということを意識していました。不思議と時間を区切らずに完璧に仕上げたと思っている場合と、さほどクオリティは変わりませんでした。
 また、仕事も研究も今日やらなくていいことはやらないという勇気を持つことも大切だと思います。休むときは休む、飲むときは朝まで飲む、次のことは次の日考える、と切り替えていました。モチベーションを維持するためには息抜きが不可欠なので、連休や長期休暇のときには、仕事と研究から離れて、家族や友人と楽しく過ごすことを心がけていました。

   本日は、長時間ありがとうございました。

 

(2016年3月取材)

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