※新組織改編前に作成した記事です

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西尾チヅル(教授)

毎年多数の学生が受講する人気の授業「マーケティング」を担当する西尾チヅル教授に、授業内容とゼミ生の研究などを話してもらいました。(インタビュー実施年月:2011年6月)

興味・関心のある研究テーマについて教えてください。

もともと私は、消費者基点のマーケティングに興味がありましたが、GSSMで教鞭をとるようになってからは、環境マーケティングへと関心が変わってきまし た。これまで地球環境への対応はリクスマネジメントとして考えられてきました。しかしながら、私たちのライフスタイル自体を環境配慮型に変えなければなら ない現在において、いかに環境対応を実現するかが重要になっています。企業はエコプロダクト開発に取り組んでいますが、消費者側からすると環境対応してい ることの“見える化”が難しい状況があります。そこで、いかにしてエコプロダクトのニーズをあげて、市場を創造し、我慢ではなくマーケティングの対象とし て、環境配慮や社会貢献、企業の社会的責任に取り組んでいくべきかというのが、私の最近の研究テーマになっています。GSSMの担当科目も、通常のマーケ ティング科目に加えて、「環境マーケティング」という科目を開講しています。これはビジネススクールとしては、とても珍しいのではないでしょうか。

授業の具体的な内容を教えてください。

GSSMの良いところは、文系・理系関係なく、企業の人たちの抱えている課題を解決するための“思考”や“ものの見方”を広く伝えることです。マーケティ ングに関して言えば、誰もが消費者として消費者行動はしていますが、私の授業では学問としてのマーケティング・マーケティング思考をしっかり教えたいと考 えています。具体的には、マーケティングの定義からマーケティング・ミックス、最近のマーケティングの動向、ソーシャル・マーケティングや環境マーケティ ングなどを網羅的に学習します。さらにポジショニング戦略や市場構造分析なども学習します。また、それぞれの興味・関心に応じて、「マーケティングマネジ メント」や「マーケティングサイエンス」などの関連科目を学べるのもGSSMの特徴だと思います。ちなみに授業では、考えるための簡単な事例としてケース スタディも用いながら、基礎的な知識、経験を深めていただきます。例えば、コンシューマー製品を扱う企業の顧客対応システムのケースを用いて、“顧客維 持”や“顧客相談室に届く消費者の声をどう捉えるか”といった問題を考えていきます。GSSMでは、マーケティングに限らず、多くの科目で“仮説を持っ て、物事を見る”ことが重視されており、仮説構築のために必要な知識をいろんな授業から広く得ることができます。そして、その仮説の正しさを確認する手段 として、統計学やデータマイニングなどを学ぶことができます。マーケティングについても同様で、学生のみなさんには仮説を持ってマーケットの構造を見て欲 しいと考えています。

共同研究なども積極的に行っているそうですが。

行政や企業と共同で、環境マーケティング関連のさまざまなプロジェクトを実施しています。例えば、経済産業省を中心に進めているカーボンフットプリント研 究会の委員として、「カーボンフットプリントの制度化」に取り組んでいます。研究会では、環境配慮を“見える化”するために共通のモノサシをつくって、き ちんと消費者側に情報を提示することを目指しています。ある商品の原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでの全プロセスで排出される温室効果ガスの排出 量をCO2に換算し、該当商品・サービスにわかりやすく表示することで“見える化”を実現するのです。実際の商品にカーボンフットプリントを施して店頭実 験も実施したのですが、ふだんお菓子を買わない人が、この表示のあるお菓子を購入するなど、この制度が消費者からポジティブに受け入れられていることがわ かりました。しかも値引きなど一切行なわなかったにもかかわらず、前年同月比より1割も売上げが伸びたという興味深い結果が出ています。そのほかにも、横 浜市のゴミ削減の要因調査として、家庭用生ゴミ処理機の利用者が、飽きずに家庭用生ゴミ処理機を使い続ける要因分析などを実施したり、LOHAS(ロハ ス)消費者をテーマに、LOHASの提唱者である社会学者のポール・レイ氏と世界の研究者による共同調査『International Cultural Creatives Survey Project』に参加したりもしています。これらのプロジェクトの内容については、授業でも紹介し、ときには学生のみなさんの意見を聞くこともありま す。社会人学生からの意見は、私の研究においてとても貴重なものです。社会人のリアルな声を、委員会で議論し、最終的には制度に反映することができるから です。このような相互作用ができるのもGSSMの良さだと思います。

ゼミ生は、どういう研究をされているのですか。

それぞれのゼミ生が社会人として何らかの問題意識を持って入学していますので、研究テーマは、ブランド、インターネット、ネットコミュニティなどさまざま です。最近では、環境マーケティングなど新しいテーマに取り組む学生も増えてきました。例えば、今年度修了生の修士論文の一つは、コーズ・リレーティッ ド・マーケティング分野の研究でした。この分野の事例としては、飲料メーカー:ボルヴィックの『1L for 10L プログラム』が有名です。水1リットルを買うと、売上の一部が寄付され、アフリカで飲料水を確保するための井戸づくりなどに使われるという活動です。ボル ヴィックのプログラムが登場してから、他の飲料メーカーは、水関連のキャンペーンを避ける傾向になっています。私のゼミの学生は、そこに着目し、一見連想 しにくいものでもブランディングの意味をきちんとコミュ二ケーションすることにより、効果が高まることを研究で明らかにしました。この研究成果は、世の中 からの注目度も高く、民間調査会社からの研究支援につながりました。このように私のゼミでは、社会人の方々が実際のデータをとってきて、その研究成果を学 会なり行政なりにフィードバックするという良い循環ができています。

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