※新組織改編前に作成した記事です

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村上 暢子さん

  • デロイトトーマツコンサルティング合同会社
  • 企業科学専攻 システムズ・マネジメントコース

Q.入学の動機を教えてください。
A. 入学の動機は、管理会計/経営管理領域のシステムコンサルとして仕事を行う中で、顧客企業の経営層に接する機会が多くあり、現場で身に付けた経験だけではなく、幅広い理論/知識を基にお仕事ができるようになりたいと感じ始めたからです。
Q.修士課程入学の際に、GSSMを選んだ理由を教えてください。
A. 会社に勤務しながら通うことができる社会人大学院であること、そして実務とアカデミックの両面から研究に取り組むことができる環境が整っている点からです。社会人大学院は色々ありますけれど、ここは欧米型のビジネススクールという感じではなく、社会人大学院の先駆けで歴史も有りますし、多くの先輩方もいらっしゃいます。
 それから入学当時、「データを使って経営に資する、そういうメカニズムを解明する」、というような謳い文句があって、仕事上そこに惹かれたというのも理由の1つです。
Q.修士課程は授業数も多いとお聞きしますが、何かご苦労はありましたか?
A. はい、私は大学が英文科でしたのでデータを扱うような学びはしていませんでした。私が修士課程に所属していた頃は理数系の授業が今よりも多かったため、なかなか課題をこなすことができませんでした。そこで、講義外の時間に講師をされている先生に補習のような感じで時間を頂くようにしました。最初は私1人だったのが2人になり3人になり・・・最後は6人ぐらい集まって補習を受けてから授業に臨みましたね。仲間と一緒に学んでいくことで、新しい知識を存分に吸収することができました。
Q.ふだんのお仕事内容について教えてください。
A. 監査法人系のコンサルティング会社で、管理会計/経営管理領域のコンサルタントとして仕事をしています。これまではシステム関係の会社で勤務しており、顧客企業に対して管理会計システム・経営管理システムの導入を支援するコンサルティングを行ってきました。現職では、管理会計システム・経営管理システムがどのように経営戦略や事業戦略の推進に貢献することができるのかという観点でのコンサルティングを行っています。大学院入学前に希望していた通り、現場で身に付けた経験だけではなく、幅広い理論/知識を基に仕事ができる環境に、とても満足しています。
Q.修士を終えて博士課程までに1年空いた期間はどのように思われていたのですか?
A. 博士課程に進むかどうか迷っていたのと、修士の研究の際に財務データを使って実証分析をしていくのがとても難しいと感じたので、自分の中で一度方向性を整理する時間にしました。その後もっと自身の能力を高めて、より深く研究に取り組み、一人前の研究者のレベルまで成長したいと感じたため、修士課程修了から1年のブランクを経て、博士課程に進みました。
 その間、別の大学院の博士課程の説明会へ足を運んだり、色々と比較検討もしました。でも、修士でこちらに通って授業や論文の進め方が分かっているので、仕事と両立しやすく、時間のペース配分もしやすい、という点からこちらの博士課程を選びました。
 最終的に博士課程に進んだ理由は、実務の中で感じた問題意識を基に研究に取り組み、微力ながらその研究結果により実社会へ貢献することができればいいなと考えたからです。
Q.修士課程と博士課程の大きな違いはどんなところですか?
A. 修士は講義中心で単位を取っていく形ですね。論文も書きますが、基礎の基礎を教えていただく感じなので、当時は必死でしたが、博士課程に進んで振り返ると、私の専門である管理会計知識を活かして論文で説明するという点においては、まだまだ未熟なところが多かったと思います。
 私はまず修士課程で研究の基礎を身に付けました。管理会計という自身の専門ではなく、財務分析を中心に実証研究に取り組んだのですが、様々な経済活動の成果が含まれる財務データを用いた実証分析で結果を導き出すためには、丁寧なデータクレンジングや高い分析知識が必要であることを痛感しました。
 博士の方になると論文を書いて査読を通していく、クオリティを出来るだけ上げていく、という形になるので、自分と主指導の先生で積み上げていく感じで、講義はほとんどありません。

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Q.GSSMでどのような研究をされたのですか?
A. 博士課程では、財務アプローチによる買収効果に関する研究に取り組みました。日本企業は買収で成果をあげられないという雑誌や新聞記事をよく目にしていました。また、業務の中でも、M&Aを実施する予定なので、今後どのように投資管理・業績管理を行っていけばよいか?というご相談を受けることが多くありました。そこで、本研究に取り組むことにしたのですが、企業の経済活動成果だけではなく景気動向や業種による業績の違いの影響を受ける財務データを使った分析で、買収成果を検証することは難しく、なかなか研究成果を得ることができませんでした。そのような状況で、会計がご専門の副指導の先生から「傾向スコア分析と差分の差分分析」を紹介して頂き、この分析手法を使えば先行研究との差別化ができるとアドバイスを受けました。もともと多変量解析などの理解が拙かったので、新しい分析手法を理解することは簡単ではなかったのですが、金融工学がご専門の主指導の先生や、統計解析がご専門の副指導の先生から厳しく指導して頂き、何とかこの分析をこなす能力を身に付けることができました。
 博士論文の中では、収益性・生産性の改善という買収効果を確認することができました。また、買収を実施した企業の安全性(債務返済能力)が損なわれる事象を分析結果から把握したのですが、その原因は買収実施に伴う外部資金調達ではなく、買収実施後の積極的な追加投資による影響であることも検証結果から導き出すことができました。非常に難しい研究であり、研究成果をあげるまでに長い時間がかかりましたが、自身が納得できるレベルの博士論文に仕上げることができたと感じています。
Q.今後は一旦研究から離れて、実務の方に専念される予定ですか?
A. そうですね。でも学会には所属しているので、研究は続けていこうと思っています。ただ、軸足は実務を中心とし、空いた時間に研究していく形になると思います。
Q.研究をどう実際のビジネスに役立てたいとお考えですか?
A. 研究に取り組む中で身に付けた、「論理的思考と文章表現力」「財務データの分析能力」を活かしていきたいと考えています。
 まず、「論理的思考と文章表現力」をどのように身に付けたのか。博士論文の「はじめに」を書く際には、「なぜこのテーマを選んだのか」「どこに問題意識を感じたのか」「研究の目的は何か」を適切に示す必要があります。一生懸命考えて書くのですが、「この文章で何を伝えたいのかがわからない」と、何度も指導教員の先生から指摘を受けました。端的に、適切に、専門外の方にもわかりやすい表現で文章を書くということが、これほど難しいとは思いませんでした。考えて書いては修正を受ける、この繰り返しの作業の中で、「論理的思考と文章表現力」が培われたと思います。この能力は、例えば、業務上のコミュニケーションが上手くいかず、関係者の意識統一が難しいといった状況などで活かすことができます。「なぜこの問題が発生したのか」「どこに課題があるのか」「業務上の目的は何か」をしっかり考え、適切な対処の流れを素早く判断する能力が高まったと感じています。
 次に、「財務データの分析能力」についてです。私は、管理会計/経営管理領域を専門として仕事をしてきました。今の時代、AIやIoTなど「分析を活かした技術」を組み込んだ製品やソリューションを提供している企業が増えていますが、管理会計/経営管理領域でこれらをうまく活用できているケースはまだまだ少ないと感じています。ですから、研究に取り組む中で身に付けた「財務データの分析能力」は、私の専門である管理会計/経営管理領域において、もっと活かしていける余地があると考えています。

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Q.社会人学生として、研究する上での困難はどんなことですか?
A. 研究する上での困難は、やはり時間の調整だと思います。特に、仕事と研究のバランスをとることが難しかったです。私が特に注意していた点は次のことです。まず、研究の山場に業務量を抑えて頂けるように、研究に余裕がある時期は仕事にできるだけ専念して成果をあげるようにしました。また、研究が佳境の時期(私の場合は、ドラフト発表・予備審査が最も忙しかったです)にも、睡眠時間や休暇を削って最低限の業務はこなすようにはしていました。そして、研究成果が上がった際には、必ず会社関係者に報告していました。博士課程の修了が決まった際には、製本した博士論文を会社関係者にも渡しました。謝辞に、会社関係者への感謝の言葉を書いたので、とても喜んでもらえました。研究する上での困難を乗り越えるためには、周囲とコミュニケーションをできるだけとり、研究の重要性(例えば、業務にどのように研究で身に付けた知識が役に立つのか)を理解して頂くことが重要だと思います。
Q.修士課程を修了された方に博士課程へ進むことをお勧めされますか?
A. 自分の生活と仕事のバランスが取れるようであれば、ぜひ進むことをお勧めします。修士課程と博士課程では論文に求められるレベルが違います。自分の専門領域によって求められるレベルは異なりますし、研究者になる為に博士へ進むと思う方も多くいらっしゃいますが、やはり論文を書く中で先生方から受けたご指導の数々で、考え方や情報の整理の仕方、人に説明する説明能力や基礎的な仕事で必要な能力が伸びたと感じています。
 仕事とのバランス、家庭とのバランスを上手く取れるのであればぜひ、博士課程に進むことをお勧めしたいと思います。
本日は長い時間ありがとうございました。
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