※新組織改編前に作成した記事です

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瀬之口 潤輔さん

  • 株式会社三菱UFJモルガン・スタンレー証券
  • 企業科学専攻 システム・マネジメントコース

Q.まずは入学の動機を教えてください。
A.ビジネスパーソンとして人と異なる価値を生みだしたい、というのが入学動機です。私はアナリストとして経済や企業の分析を20年ほど担当してきたのですが、最近は公表されている定性データを用いて主観的な分析をしても大きな価値を生み出すことが難しくなっています。極端にいえば誰が分析してもほぼ同じ結果が出てしまいます。アナリストの評価についても分析能力の高さではなく、情報の発信量が評価の重要指標になっているのです。そんな環境に身をおいていますので、自らを差別化するために博士号の取得を目指しました。私は1996年に米国でMBAを取得したのですが、博士号は仕事と両立しながら取得したいと考え、GSSMを選びました。
Q.研究内容を教えてください。
A. 「ノンパラメトリック手法を用いた金融危機の要因抽出に関する研究」というのが博士論文の題目で、主に金融危機の発生要因について分析を行いました。一番の肝は分析手法です。先行研究の多くは伝統的な統計手法を用いているのですが、統計分布に従わない経済現象や発生要因が非連続である場合のモデル化に限界がありました。私の研究では、複数のノンパラメトリック手法を組み合わせることで金融危機の発生要因となる金融株価の変動トリガーなど重要な知見を得ることができました。
Q.研究で大変だったことはありますか。
A.大変なことが多かったですね。ジャーナルの査読が通らず博士号取得は無理ではないかと諦めかけたこともありました。入学から4年目まででジャーナルに掲載された査読論文は1本だったのですが、人工知能と出会ったことで状況が一変しました。当時、私の身の回りでも人工知能を使った株価や倒産確率の予想が話題になっていましたので、人工知能はこれからのビジネスに使えるのではないかと思い、そちらの手法に絞って研究することにしたのです。そして、人工知能の専門家である倉橋節也先生に改めて主指導教員になっていただきました。

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Q.人工知能の手法に変更後の進み具合はいかがでしたか。
A.人工知能に絞ってからは本当にスムーズに研究が進みました。必要なリソースやデータ収集も容易になりましたし、1年間に執筆した3本の査読論文がすべてジャーナルに掲載されました。奇しくも人工知能やビッグデータ分析に対する社会の関心が高まってきた時期と重なったことも大きな要因だと思います。自分の問題意識の解決や当初に定めた研究テーマを貫く姿勢も大切だと思いますが、それが社会ニーズにあっているのかを見極めることも博士号取得のためには重要だと痛感しました。
Q.論文指導はどのように進められるのですか。
A.私の場合は月1回程度のペースで、主指導教員の倉橋節也先生と面談し、研究の状況報告や今後の進め方をについて相談していました。修了間際の1年間は週一回の頻度でした。また、学会での発表も積極的に行い、台湾とシンガポールで開催された国際学会でも発表しました。倉橋先生をはじめとした先生方の指導はとても丁寧で、研究テーマの掘り下げだけでなく、ジャーナルの査読に通る論文の作成手法や学術スキルなどきめ細かく指導してくださいました。

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Q.仕事と研究を両立するコツはありますか。
A.私の場合は休学期間を含めて取得まで8年間かかりました。3年間で博士号を取得したいという気持ちもありましたが、仕事が忙しい時期は思い切って休学し、仕事に集中しました。無理して詰め込んで仕事に弊害がでるくらいなら、長期的な視点で研究を進めることも大切だと思います。博士号の場合は取得後の人生やキャリアへの影響も大きいと思いますので、取得が数年遅れても大差はありません。先生方も社会人学生の状況を理解してくれており、「仕事が忙しいときには思い切って休学し、仕事に集中してください」とアドバイスいだだき、精神的に楽になりました。
Q.今後のキャリアについて教えてください。
A.現在は、アナリストとして財務分析、企業分析、株価予想を行う一方で、人工知能を用いたモデルによる株価予想を並行して手掛けています。博士論文の研究成果が直接実務に活用できていますので、いま暫くはこちらの分野でキャリアを積んでいきたいです。人工知能を用いた予想は、世界的な注目されており、海外の投資家などからの問い合わせも増加しています。
また、仕事の傍ら大学の非常勤講師を務めているのですが、大学などアカデミックの世界で研究をやるのも、実務家として会社のリソースを用いて研究をやるのも、研究という点ではあまり変わらないとも感じています。もし将来的に研究だけに集中したくなったら、そのときは論文指導でお世話になった実務家出身の先生方に相談することもできますから。
ありがとうございました。

 

(2017年2月取材)
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