統計モデルを用いて
客観性の高いマーケティング意思決定を

 意思決定に髙い客観性と精緻さが求められる経営環境では、統計的手法を代表とする様々な分析手法を用いてマーケティングデータを解析し、意思決定に活用することが求められています。担当する「マーケティング」の授業では、マーケティングに典型的な意思決定問題について、関連する理論と分析手法を併せて紹介することで、「応用統計」ではより先進的な分析手法をテーマとして扱うことで、このような社会的要請に応えることを心がけています。

 企業が商品やサービスを販売するためには、広告を出すかどうか、値段をどうするのか、どのようなお店で売るかなど、さまざまなことを決めなければなりません。このような商品やサービスが売れるようにするための諸活動がマーケティングです。では、テレビCMはどのようなタイミングで、何回出稿すればよいのでしょうか。値段はいくらにすべきなのでしょう。それは当然、カンで決めるのではなく、客観性の高い方法によって意思決定する必要があります。さらに、組織が継続する限り意思決定も繰り返し行われていくわけですから、過去の意思決定を評価しフィードバックを得て、当期の意思決定に反映する必要もあります。

 また、近年は消費者需要の多様化に伴い、企業のマーケティング活動はかつての消費者全体に同質的なアプローチを行うマスマーケティングから、消費者を性別や年齢層などの属性情報を基準として複数個のセグメントに分割しセグメントごとにカスタマイズした対応を取るマーケティング、さらに究極的には消費者個々の需要や反応の違いに対応し消費者ごとに異なる活動を行うワントゥワンマーケティングへと移行しています。これには例えば、インターネット通販サイトでよく見かける消費者の購買履歴に基づいたプロモーションや、スマホアプリで配信するクーポンやお知らせの内容とタイミングを、消費者の属性や店舗利用頻度に依存してカスタマイズすることなどが挙げられ、カスタマイズに伴う費用増分が小さい分野に顕著です。このような精緻な意思決定が求められる状況においては、マーケティングデータをより精緻に解析し、たとえば消費者個々のレベルなど、より細かな知見を得る必要があります。

 ここで私が専門としているマーケティング・サイエンスは、統計的手法を代表とする様々なデータ分析手法を用いてマーケティングデータを解析し、意思決定に有用な示唆やモデルを提供することで、上記意思決定に求められる客観性や精緻さの点で意思決定者を支援するものです。

 修士課程の授業では「マーケティング」と「応用統計」を担当しています。「マーケティング」では、マーケティングに典型的な意思決定問題とそれに関連する理論、さらに対応する統計学や計量経済モデルを中心とした分析方法を概説します。例えばある企業が過去に実施してきた広告活動の効果を測定するという課題に直面したとき、消費者の購買意思決定プロセスに関する知識があれば、効果を売上という最終段階の結果変数だけでなく、認知レベル、内容理解レベルなど細かに測定し次期の意思決定に役立てることが考えられるでしょう。あるいは、消費者が行動を起こす動機付けの強さが、行動を起こした結果得られると感じる価値の程度とその実現可能性に関する認識によって定義されるという期待価値説の概念を活用することで、広告のクリエイティブをこれらの変数を使って評価することも可能となります。つまり何らかのマーケティング課題に直面したときに、理論に基づいた演繹的な推測によって仮説やモデルを構築する能力と、データ分析によってそれを検証したり精緻な知見を得る能力の両方を兼ね備えていることで、マーケティング意思決定がより精緻なものになります。したがって授業は意思決定問題の種類、関連する理論、そして分析手法の3つを組み合わせた構成になっています。

 「応用統計」ではベイズ統計学や欠測データ解析など、分析手法の面でより先進的なテーマを扱っています。10cmの長さを測るなら普通の定規で測れますが、0.1mmを測るならそれに適したスケールが必要になります。これと同じように、より精緻なデータ分析を行うためにはそれに適した分析手法が必要になります。授業ではテーマに関する直感的理解を重視しながら、フリーの統計解析ソフトRを用いて分析例を示し、結果を解釈することを行っています。

 近年、インターネットの普及や電子技術の発達にともない、消費者個人の購買履歴や交通系ICカードによって記録される移動履歴など、ミクロかつ膨大な経営情報が蓄積しています。このような状況を上手く活用して意思決定を強力にサポートする知識と技術を身に付けていただきたいと思っています。