人工知能やシミュレーションを利用して
的確な情報分析と新時代のモデル構築を

 社会が複雑さを増すなかで、経営にとって有用な情報を見つけることは難しくなってきています。ビッグデータの利活用がいわれるなかで膨大な情報から必要なデータを分析することも簡単ではなくなってきています。しかし、人工知能や社会シミュレーションなどを専門とする倉橋節也准教授は、これらの技術や考え方を利用することで、効率的な情報分析や有効な事前検証が可能となり、ビジネス戦略策定に大きく役立つうえ、社会的課題の解決にもつながっていくとしています。

 「人工知能とビジネス情報分析」「社会シミュレーション」のうち、入学後まず取り組んでもらうのは人工知能の科目です。そこでは、最近よく聞かれるようになってきていますが、『データマイニング』(人工知能のひとつで機械学習を用いて、大量のデータから意味のある情報を発見する手法。企業や社会に蓄積したビッグデータの解析に威力を発揮する)といったことなどを取り上げながら、全体的な理解を進めてもらう入門編です。我々の身近にある電車の経路案内で使用されている『探索』に関する話も入れながら講義を進め、その後は様々な場面で意思決定をするためのデータ分析方法について、人工知能の側面から説明していきます。
 この人工知能(Artificial Intelligence=AI)という言葉が作られたのは1956年のダートマス会議で、比較的新しい学問です。人工知能とは何かを考えると、人間にとって難しいと思える問題を、人間の知能をヒントにコンピューターで解くための原理や方法を研究する学問であるといえます。でも大事なことは、研究する人が「面白い」と思えることです。そういう意味で、人工知能研究は、新しくユニークで突飛なアイディアを歓迎しています。
 さらに、人工知能は、多くの人たちのものとなって利用されるようになると、『人工知能』とは呼ばれなくなるという側面があります。グーグルの検索はまさにそれで、創業した人たちはそもそも人工知能を研究していて、インターネットが登場したので人気のあるサイトとないサイトの関係をどう見つけていくかを研究した人たちでした。それが世の中に出て『グーグル検索』と名前が付くともう人工知能とは言われません。さらに言うなら、コンピューター自体もチューリングという人工知能学者が考えたわけですが、コンピューターという名前が付いたらもう人工知能とは呼ばれないのです。その意味では、この分野は、永久に“ポピュラー”になれない学問かもしれません。

Setsuya Kurahashi

 しかし、人工知能をビジネスに利用することは大いに可能で、マーケティング手法を考えたり企業のM&Aを行おうとしたりするとき、意思決定の基となるデータもなく勘でやってはいけないですよね。そのために、データを分析することに加えて、人工知能によるシミュレーションというものが利用できます。これは、事前検証が難しい場合などに利用できるものです。例えば、人間や社会に関わる課題を解決しようと思っても、人の生活や社会の制度に関わったりする場合、簡単には実験できないことも多く、解決策の事前検証が難しい場合も少なくありません。そこで「社会シミュレーション」という、問題解決のための技術を利用します。
 これはコンピューター上に、「エージェント」という人間のようなモデルを作り、すでに得られているデータを利用して、ある条件でそのエージェントが意思決定し行動するようにシミュレーションしていくもので、経営戦略や社会的な課題などについて事前予測を立てることができます。実際、何年か前、ある学生が自社の海外進出に際して、相手国で軋轢を生まないように、どのようなマネジメントをすれば良いかシミュレーションを行い、日本から要員を何名送るべきか、そこでどのような人間関係を作ればうまくいくのかといった研究を行ったこともあります。

Setsuya Kurahashi

 他にも、ある職種で、女性の割合がすごく低く、入っても短い期間で離職する人が多いために悩んでいた学生がいました。ただそこでは、女性の定着をはかるため、子育て支援やオフィスの工夫、昇進の仕組みなど様々な手を打ったそうですが大きな変化はありませんでした。しかし、社会シミュレーションを学ぶ中でこれを利用できるのではないかと考え、シミュレーション実験をしたのです。すると、採用した女性を各部署に平均的に割り振っていくと、そもそも人数が少ないため男性9名に対して女性は1名という部署が多くなっていき、女性の心理的負担が大きくなることがわかりました。その結果、むしろ女性は数人で配置したり、女性だけのチームを作ったりするほうが良いのではないかとの結論に至りました。これも実際の人間で何カ月も試すわけにはいきませんから、シミュレーションが生きたのです。

Setsuya Kurahashi

 最近は、ビジネス面でビッグデータや統計などのデータが注目されていますが、これは既存データから何かのルールを見つける、言うなれば帰納法であるわけです。しかしデータから導かれることだけでは、当たり前のことが見つかることばかりで、新たな発想やビジネスは出てきません。そこで現実を模したモデルを作って、演繹的な思考や試行錯誤、あるいは想定外の事態に出会うことから、新たなアイディアやひらめきを生み出す発想法も、実際のビジネスでは必要になってきます。
 学生には、そういった現実のビジネスを踏まえた分析をしっかりできるようになってほしいですし、同時に単なる分析だけで終わるのではなく、実際のマネジメントに生かしていってほしいですね。そして、次の時代に活かせるモデルを作っていってほしいのです。モデルを作るということは科学的データに基づいて世の中を抽象的に単純化して分かりやすくすることであり、意思決定をしやすくすることにもなります。
 このように適切な情報分析とモデル構築は今後のビジネスには欠かせないと思いますから、本学では二つをバランスよく学んでほしいですね。

<構成・舘谷 徹>