統計手法を使って物事の関連性を探る
ビジネスデータが身近な社会人にこそ重要に

 現在は、様々な企業や業種で幅広いデータが集まってくる時代になり、そのデータを統計的に処理して利用することも重要になってきています。さらには、経営やマーケティングなどビジネス課題を解決していく際にも、データを的確に分析して判断することが求められています。統計科学などを専門としている尾崎幸謙准教授は、数値データを統計的に分析することによって、様々な出来事の背景にある意味や関連性を読み解く力が向上すると考えており、研究分野や業種などの違いに係わらず重要になってきているとしています。

 私が専門に研究しているのは、統計科学(構造方程式モデリング、テスト理論、マルチレベルモデル)・行動遺伝学・社会調査で、GSSMの修士科目では「データ解析」「多変量解析」「統計モデル」を担当しています。統計といっても、なかなかイメージしづらいかと思いますが、簡単に言えばデータを分析する学問であり、どのようなデータがあって何のために分析するかが係わってきます。その中で、私の専門は、テキストデータなどではなく数値データを分析する統計学になります。
 統計学は、皆さんにとっても身近な存在になってきていて、例えばアマゾンで何かを購入すると、その後それに応じたお勧めの品が表示されますよね。このレコメンデーションは、アマゾン内部のシステムで作られて溜まっていくものですが、統計の手法によって分析されたものなのです。

Tadahiko Sato

 また、仮説検証という統計学の基本的な考え方があるのですが、これは仮説を立て、それを調査によって実証していこうというものです。例えば「A」と「B」の2つの商品があったとして、それまでの経験上、Aのほうが良いと思えてもそれは仮説の段階であり、実際に良いかどうかはデータを収集して、実際になぜ良いのかを明らかにしていきます。つまり、データを統計的に処理するということは、物事の間にある相関関係を見つけることであり、様々な出来事の間に存在する関連性を理解することにもつながってきます。
 私の授業でもそれを目標としているため、高度な計算が必要になる統計的な研究よりも、統計的手法をいかに利用して物事の関連性を見出していくかを重視しています。ですので、いわゆる文系を学んできた学生にも分かっていただけるように、エクセルをある程度使えれば受講できるようにしています。さらに、社会人である学生が多いですから、自社のデータに統計学の手法を適用してみることにも関心があると思いますので、それを念頭に置いて授業を進めるようにしています。そこで、実際にあるデータを例に、どの統計学的な手法を当てはめていったら良いかを考えてもらい、その手法を使うとどのような数値が出てくるかを確認して、最後には結果を適切に読み解けるようにしていきます。

Tadahiko Sato

 実際の授業の進め方ですが、統計学を学ぶ最初の段階となる「データ解析」では毎回課題を出して、それを採点して返したうえで、その解説から授業を始めます。その際、特に強調するのは、データの解析で出てきた結果の背景にあるものです。実はここがとても重要で、手法の使い方よりもしっかりと説明していきます。なぜかと言えば、先にお話ししたように統計学では物事の関連性を理解することが重要であるからです。
 ここで実際に出す課題としては、例えば国際サッカー連盟(FIFA)が公開しているデータを利用して、各国の代表チームにおけるゴール数と、負け数の間の相関係数を求めてもらうこともしてもらいます。計算自体は数字を間違わなければエクセルですぐにできるようなもので、条件に応じた値が出てきます。単純に考えるとゴールを決めれば決めるほど負けないとも思えますが、ゴール数が多いのに負けるケースが出てくるのですが、ここでその背景にあることに気付けるかが大切になります。この例では、同じ代表チームといっても試合数が違い、ブラジルやドイツといった国は試合数自体が多いためゴール数が多いのに負け数が多くなるのです。そこで、試合数という影響を取り除いた相関を見てみると、マイナスの値がきちんと出てくることになります。課題では試合数の関係性を取り除いたところまで計算してきてもらいますが、その先のより深い分析や考え方については授業の中で講義をして理解してもらえるようにしています。

Tadahiko Sato

 本学で久しぶりに統計を学ぶという方も多く、最初の授業ではよく分からないという感想の方もいます。しかし、社会人としての経験があると、自らビジネスの中でデータが身近にあるため、一度統計的な手法が分かればそれをどう利用できるか、自分のこととしてすぐに理解できるようになって一気に力が付く方が多いですね。実際、学生の中には、学校職員で自校の学生を就職へ導くためにデータを利用して分析した方もいますし、別の学校の方では学生と個別相談をする際に、過去の事例を生かしてどう適切な職業や就職へ導くかを考えられた方もいます。
 このように、データを統計学的に理解することは、数字から見えてくる背景を直感的に理解できるようになることでもあります。ただ、統計学的に「良い分析」というものは、自身や会社にとって都合の良い分析のことではなく、データが収集された方向性や、そのデータにどういう分析手法を当てはめたのかも関係してきますから、結果が出てくるまでの筋道の正しさが重要になります。そういった正しい筋道のあり方を含めて統計学を学んでいただき、ビジネスや社会、あるいは人の心理の背景にある物事の関連性を理解できるようになっていただきたいと思っています。

<構成・舘谷 徹>