実体経済を動かすインパクトを持つ財務会計
財務諸表作成を通じて基礎的な理解を

 企業活動を映し出す鏡ともいわれる企業会計を理解することは、企業の実態や価値判断に欠かせないだけではなく、経営学やマーケティングといった各分野にも関連し基礎的な要素となります。「会計基礎」「財務会計」「会計情報分析」などの科目を担当している中村亮介准教授は、簿記の基礎から学ぶことのできるGSSMの特長を生かして、ビジネスの基礎に係わる“数字”の意味を理解することが大切だとしています。さらに、“紙の上”の計算であるはずの財務会計が実体経済にも影響を及ぼし、社会全体に関連していることを理解してもらいたいと考えています。

 修士課程で担当している科目は「会計基礎」「財務会計」「会計情報分析」ですが、会計基礎では簿記と会計の基本について講義します。日常の経済活動を会計的に記録することから始まり、決算を行って貸借対照表と損益計算書を作成する一連の作業の意義が理解できるようになることが目標です。
 本学では簿記の基礎から学ぶことができることが特長でもありますが、逆になぜビジネススクールで簿記なのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。一般的なビジネススクールでは財務分析に重きを置きがちですが、そのベースとなる財務諸表を作るための簿記を学び、減価償却や貸倒引当金とは何かというところから知ることによって、財務諸表に書かれている数字の意味を深く理解できることにつながってきます。これらのことは、意外と社会で働いてきた方々も分かっていない部分が多く、ここで学び初めてきちんと認識できるようになったという方も多いのです。

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 私は学生によくこう例えるのですが、車を運転できても、車が壊れたときに修理をするには車自体の構造を分かっていないとできませんが、会計で言うなら車の構造に当たる部分が簿記や財務会計となります。確かにこの構造が分かっていなくても運転、つまり企業でのビジネスはできるわけですが、そのビジネスがうまくいかなくなった時に企業のどこ(たとえば,販売部門・仕入部門・財務部門)に問題があるのかがわかりません。
 それに、経営学やマーケティングを勉強していくにしても、企業の状況、アウトプットは利益という数字に表れるといえますから、簿記でその意味を学んでおくことは確実に他の分野にもつながってくるはずで、経営や経済に関する学問の基礎、まさにファンダメンタルになっているのが簿記だといえるのです。

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 もう少し複雑な取引を勉強するのが「財務会計」です。ここでは財務会計の最新論点について学習し、企業の経営成績や財政状態、キャッシュ・フローの状況を表す財務諸表の何が最近変わってきていて、また何が変わっていないのかを学ぶことを目的とします。具体的には、財務会計の個別論点である金融商品会計、リース会計、退職給付会計、税効果会計などについて、どのような論理で会計処理が行わるのかを学習し、その結果、財務諸表にどのようなインパクトを与えるのかについて具体的なケースを使いながら理解してもらいます。
 例えば、企業会計の勘定科目の一つに繰延税金資産というものがありますが、これが注目を浴びたのは足利銀行やりそな銀行が破綻した頃です。それまで計上されていた繰延税金資産が,監査法人によって否認されたために大幅なロスが出て破綻へつながっていったのですが、このこと自体は会計上の問題であり“紙の上”の計算です。しかし、紙の上のことなのに実体経済に大きな影響を及ぼしたのです。

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 つまり会計は、実体経済を動かすためのインパクトを持った重要な判断指標を含むわけで、企業実態をいかに写像していくかが目標ともなりますが、この実態というものは正解があるようでないのです。例えば、相対的真実性という概念があり、それは同じ会計事象を扱っても経営者が違えば利益として出てくる数字が異なることがあります。これは,真実を表すものであれば複数の会計処理方法が認められているからです。さらに、会計の分野では「キャッシュは事実,利益は意見」という格言があります。キャッシュは、その時あるお金なので誰が計算しても同じですが、利益は同じになるとは限らないということで、経営者が自分の会社はこうだと社会へ発信する“意見”でもあるのです。
 “意見”といっても,何をしてもよいというわけではなく,一定のルールに従わなければなりません。そのルールである会計基準は時代によって変化しており,それを勉強しようというのがこの財務会計の講義です。
また,その時代にマッチした会計基準を探究することは,私自身の研究と重なります。研究者としては、個々の企業の問題ではなく、それぞれの業種によって、どのような会計基準が実態を写像するかをマクロな視点でみるのがスタンスの一つでもあります。
 「会計情報分析」の授業では、どのような原理で企業価値が評価されているのかを確認し、その企業価値を戦略的に高めるにはどのようにしたらよいのかを主に会計の視点から議論していきます。授業の後半は、グループワークとして関心のある企業を対象に分析をしてもらい、対象企業の価値を高めるためにはどのような施策が必要かをプレゼンテーションしてもらいます。
 企業価値を判断するための一つとして、最近は多くの企業が開示戦略をとっていて、ディスクロージャー分析も重要になってきていますが、企業が発信する情報の一つが財務諸表であるわけです。結局、企業が出す数字が真実なのは確かですから、それを理解できるようになれば様々なところで役に立つはずです。投資家でなくても、社内で事業を進めるために他部門と交渉する際の武器にもなるでしょうし、就職活動の際に興味持った企業の実態を判断することにも生きてくるはずです。
 このように財務会計を学ぶことは経済を理解するうえでの基礎的条件となりますが、自分が進みたい分野を探究する際にも関連してくることですので、興味のある分野を基礎からしっかり固めていきたいという方にも関心を持っていただきたいですね。

<構成・舘谷 徹>