問題解決学である「OR」は
多様な分野で活用できる

 社会にも企業にも課題が山積し、その具体的な解決策の立案が必要とされています。そのためにはベースとなるデータが欠かせません。また、データはあるものの、それを問題解決のために上手に使うことができていない業界や企業も少なくないのではないでしょうか。
 猿渡教授が研究している「オペレーションズ・リサーチ(OR: Operations Research)」は、課題の本質を抽出しモデル化した上で、数理的な手法を適用することで問題を解き、最適な解を見つけ出す学問分野です。「最適化」がキーワードで、効率的な生産計画や最適な資源配分をデザインする学問です。猿渡ゼミでは学生自身が抱える課題について、まずはじっくり話を聞いて問題の本質を共有してから、問題解決のための具体的な手法を探っていくようにしています。

 私が研究しているのは、「オペレーションズ・リサーチ(OR)」と呼ばれる分野です。社会の中にある解決すべき問題を数理的思考で解いていこうという専門分野です。日本語に訳すと「運用管理」とか「問題解決学」となります。キーワードは「最適化」です。問題を解くにはデータと理論の両方が重要ですが、どちらを出発点にするのかで、ややアプローチが異なります。ORは理論からデータをみる立場です。問題を数理モデルとして表現して、その特徴を把握し、データをもとに最適な答えを引き出します。数理的なモデルを用いることで様々な「切り口」を提示し、データから最も効率的な解答を見つけ出すわけです。

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 例えば自動車メーカーが、業界内での自社のポジショニングについて評価するケースを考えてみましょう。車の売上高や販売台数といった単なるデータだけをみていても、限られたものしかみえてきません。せいぜい「もっと販売台数を増やそう」という漠然とした目標しか見えないはずです。しかし別の評価軸、例えば純利益や投資効率といった評価軸で評価すれば、改善する具体策が見えてきます。この評価軸を見つけ出す基礎が「数理モデル」に当たります。問題を数理モデルとして表現することができれば、改善する指標や最適な解の組み合わせがわかります。この数理モデルにデータを当てはめ、最適な解を見つけ出すわけです。つまりORは、問題を数理モデルとして表現し、与えられた制約条件の下で、データから最適な解を見つけ出すのです。このプロセスを「最適化」とよび、ORのもっとも重要な考え方となっています。

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 ORは伝統的には工場の生産計画や配送経路の計画に利用されてきました。しかし、ORの最適化の考え方や手法は、様々な分野に活用できるものです。実際、私はいま、ある病院と共同研究をしています。その病院は、新しい病棟を建てたのですが、どの階にどの診療科を割り振ると個々の診療科がもつ制約を満たしつつ、病床を効率的に運用できるかを考える必要が出てきました。そこで、過去の入退院患者のデータや、その地域の人口動態などから見込まれる需要を予測しながら、最も適切な配置を考えていったのです。このような問題はORでは「割当問題」として研究されており、病院の問題に適用してみたのです。病院にしてみれば、データは以前からあったわけですが活用できておらず、それをORによって適切に使うことができたことになります。

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 このようにORは、数理モデルに基づいてデータを評価し、問題解決につながる選択肢を提示していきます。そして、様々な評価軸を提供し意思決定の支援をしていきます。皆さんの会社でも、きちんとしたデータ分析の裏付けがないようなことを提案しても、上層部は首を縦に振ってくれませんよね。だからこそ、このような考え方は必要であり、とても重要だと認識される学生が多くいます。学んだことを自分の仕事にフィードバックしたいと希望する学生も少なくありません。

 ただ私のゼミの学生には、最初から「こうしなさい」とは言いません。ゼミは週に1回面談形式で行いますが、数か月間は学生自身が課題だと感じている事例をとにかく話してもらいます。私は何も言わずに聞いているだけです。すると、ある意味のモヤモヤとしたものを言葉にしたことで課題が明確になるためか、何かを指示しなくても本人自身が変化していきます。そのため私は聞き役に専念し、学生の側が先生のように教えてくれるよう差し向けます。その先にこそ、解決法が入った“引き出し”が見えてくるので、まずはどの引き出しを開ければいいのかを一緒に探していくというか、お互いが課題を共有し理解し合うことで、その先にある解決へつながる指導をするようにしています。これは、コンサルティングと同じようなものかもしれませんね。

 ゼミの学生が勤めている会社も、交通やインフラ関係、保険やスポーツなど業種は多様ですが、いまお話ししたように何度も話をしながら、きちんと課題をとらえるところから始めるやり方は一緒です。そこさえ見誤ることがなければ、あとはORというフィールドのなかで多くの手法やツールを使いこなしていけばいいと考えています。

〈参考文献〉 ちょっと難しいかもしれませんが、最も新しいORの書籍です。
『モデリング-広い視野を求めて-』(近代科学社)
http://www.kindaikagaku.co.jp/math/kd0477.htm

<構成・舘谷 徹>