※新組織改編前に作成した記事です

ダイナミックシステムズアプローチによる
ビジネス問題への接近

Hua Xu
徐 驊 教授

ダイナミックシステムズアプローチにおいて用いられる“ダイナミック”という言葉は“時間的”を意味しています。ダイナミックシステムは、システムの状態が時間的に変動するシステムと定義されています。徐教授は、常に変化するビジネスの世界における問題について、ダイナミックシステムズアプローチという数理的な方法を用いて研究しています。ダイナミックシステムズアプローチの特徴として、定量的な分析を行い、定性的な知見またはインサイトへ導くことにあります。ダイナミックシステムズアプローチは、オペレーションズやファイナンス、マーケティングなどの分野で活用されており、有効な問題解決方法のひとつであると考えられています。

私の専門領域は、ダイナミックシステムズアプローチを用いた意思決定を支援するための研究ならびにリスクマネジメントの研究です。ダイナミックシステムズアプローチは、従来、電気システムや機械システムなどの“ハード”なシステムに用いられていましたが、現在、社会システムや経済経営システムなどの“ソフト”なシステムにも応用されています。このアプローチの特徴は定量的な分析により定性的な知見またはインサイトへ導くことです。定量的な分析とは、入力(たとえば、需要予測、加工率)に対し、数理的プロセスやモデルを用いて、出力(たとえば、在庫、時間)を決めることです。 定性的な知見またインサイトとは、生産やサービスなどを指導する原理原則(たとえば、在庫増、品種減)のことです。研究のプロセスとして、ビジネス現象についてインプットとアウトプットをもとにダイナミックモデルを構築して、複雑なビジネス問題を数理モデルとして定式化します。その後、ダイナミック最適化理論やダイナミックゲーム理論などを武器に、定式化された問題をシステム分析問題や最適化問題、競争・協調問題として取り扱っていくのです。具体的な研究例としては、オペレーションマネジメント分野においては、電力自由化に伴う再生可能エネルギーをとりいれた電力需要調整メカニズムとダイナミック均衡などの研究があります。また、マーケティング分野においては、サプライチェーンにおけるイングリーディエント(ingredient)ブランディング戦略の競争分析、短期的視野でのプライシング戦略と長期的視野でのプライシング戦略の比較分析やEコマース市場(両面性市場)でのダイナミック収益配分の分析などがあります。さらに、サービス分野においては、医療保険加入者に健康改善への行動変容を促すウェルネス・プログラムの最適インセンティブ設計もあります。一方で、リスクマネジメントについては、企業を見る社会の目が厳しい時代でもありますので、企業やビジネス現場に内在するリスクの特定、リスクの測定・評価、リスクのコントロールといった問題を研究テーマとしてリスクマネジメントプロセスの具現化研究を行います。

博士課程で担当している科目は、「動的システム総論」と「リスクマネジメント総論」です。「動的システム総論」は、ダイナミックシステムズアプローチの入門編という位置づけで、ダイナミック最適化からダイナミックゲームまでの理論・方法の紹介、ならびにそれらの方法をオペレーションマネジメント問題やマーケティング問題、ファイナンシャル投資問題などに対してどのように応用するのかについて解説しています。基本的には数理的なアプローチを用いた科目です。「リスクマネジメント総論」は、リスクマネジメントプロセスにおけるリスクの特定や洗い出し、リスクの測定・評価、そして対処方法について学びます。リスクマネジメントについて実務的な観点も踏まえて検討していきます。

指導方針については、学生がビジネス現場とアカデミック研究との架け橋になれるように指導します。学生は、ビジネス現場での問題を解決したいという問題意識をもって入学してきます。ビジネス現場での問題を、勘や経験だけに頼らずアカデミック理論と方法を使って解決できることが一番望ましいと思っています。論文指導の進め方としては、基本的には学生がそれぞれのペースで自主的に研究を進めていただき、必要に応じて指導や助言を行います。論文指導やゼミは個別に行っていますので、研究テーマや研究上の課題について深く議論し、掘り下げることができます。また、学生からのリクエストがある場合には輪講も行っており、こちらは論文や書籍など学生の関心のあるものを用いています。私の研究室に所属している学生は主にメーカーや通信業界の方ですが、最近はマーケティング分野(例えばプライシング問題やアドバタイジング問題など)においてもダイナミックシステムズアプローチで接近する研究が増えていますので、ビジネス業界を問わずダイナミックシステムズアプローチでの研究を希望される方を歓迎しています。

上に戻る